便秘や下痢は決して珍しくない体の不調です。もしあなたが、通勤中の電車で急におなかが痛くなる、学校や職場で緊張する場面が近づくと急におなかが痛くなる、旅行中に便秘や下痢をするなどの症状に頻繁に悩まされているなら、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome)の可能性があるかもしれません。

過敏性腸症候群は、数ある消化器系の病気のなかでも、もっともよく見られる病気の一つで、20~40歳代の人に多いといわれています。検査をしても腸に炎症やポリープなどの異常がないにもかかわらず、腹痛をともなう下痢、あるいは、便秘がつづくというものです。また排便によって腹痛が軽くなるのも特徴の一つです。

過敏性腸症候群の原因は明らかになっていません。しかし、ストレスで症状が悪化することから、ストレスによる腸の運動異常、または、知覚過敏などが原因ではないかといわれています。また近年、腸内細菌のバランスの乱れが原因だとする報告がなされています。さらに、慢性的なストレスによりセロトニンという神経伝達物質が不足すると、腸の動きに異常がおこり、過敏性腸症候群の症状が引きおこされるともいわれます。

これまでの研究により、ストレス関連ホルモンが腸の異常に関係していることも、わかってきました。東北大学大学院医学系研究科・医学部の研究発表によると、ストレスに反応して視床下部から分泌される副腎皮質ホルモン放出ホルモン (CRH)は下垂体を刺激するだけでなく、腸に存在するCRH受容体に結合することで腸の運動を必要以上に活発にしてしまうとのことです。このように腸の運動が過剰になった場合、消化物が速く腸を通過し、腸で水分を十分に吸収できなくなるため下痢になります。

また、腸の運動異常が頻繁におこると、腸が刺激に対して知覚過敏状態になるとされます。ほんの少しの痛みや動きが脳のストレス反応を引きだし、下痢や便秘が繰り返されるという悪循環に陥ります。

過敏性腸症候群は命にかかわる致命的な病気ではありませんが、うつ病などの心理的な症状を合併することも多く、生活の質(Quality of Life)を著しく損なう可能性があります。

過敏性腸症候群の症状を緩和し、健康な心身を取り戻すには、規則正しい生活を心がけ、ストレスをコントロールすることが肝心です。運動や趣味などでストレスを発散させることも大切ですが、まずは身近な食生活を改善し、ストレスの悪化を防ぐことからはじめてはいかがでしょう。

前コラムでご紹介した〝低FODMAP食″をベースに、プロバイオティクスに目をむけていくことは有効です。

また、ストレスを悪化させるカフェインや乳製品、アルコール、小麦粉に含まれるグルテンなどの摂取を控えるとともに、添加物・加工食品をなるべく避けましょう。ビタミン、ミネラル、抗酸化栄養素を豊富に含んだ野菜や果物、さらに、良質なタンパク質を十分に確保することも大切です。

できることから少しずつ改善して、症状があらわれる頻度を減らし、オプティマルヘルスを目指しましょう。

 

参考資料
Evidence-based clinical practice guidelines for irritable bowel syndrome
日本消化器病学会 過敏性腸症候群ガイド
Impact of corticotropin-releasing hormone on gastrointestinal motility and adrenocorticotropic hormone in normal controls and patients with irritable bowel syndrome