ちょっとした体の不調から、深刻な病状まで、その根底に「ストレス」がかかわっていることが、多くの研究で明らかになってきています。慢性ストレスは、体のあらゆる器官に影響をおよぼしますが、その影響を真っ先に受けやすいのが、消化器系といえるかもしれません。
“European Journal of Gastroenterology & Hepatology”(2017年1月)に掲載されたオールボー大学(デンマーク)の研究によると、ストレスが「消化不良(上腹部の痛み・不快感、胃酸の逆流、吐き気などが、数週間以上続く症状)」の一因であるとしています。
16才以上のデンマーク人男女1万6千人ほどを対象に、ストレスに関する調査結果をもとに、ストレスの程度に応じてデータ全体を5つのグループに分け、その後の33ヶ月間のうちに、消化不良治療薬の一種である、PPIまたはH2ブロッカーを処方される事態に陥るリスクをグループ間で比較しました。
その結果、33ヶ月間におけるPPIまたはH2ブロッカーの処方箋が使用された件数は 2,703件で、そのうち、ストレスが最も少なかったグループに比べて、ストレスが最も強かったグループは、30%もリスクが高かったのです。
なお、前年11月に”BMC Gastroenterology”に掲載された同調査を元にした研究においては、追跡期間中に121名が消化性潰瘍になったとし、もっともストレスが強いグループは、ストレスがもっとも少なかったグループに比べて消化性胃潰瘍になるリスクが、2.24倍だったとしています。
ストレスは、交感神経を刺激することで胃の内壁を保護している粘液の分泌を減少させます。すると、胃の内壁の組織が胃液の中の塩酸に溶かされて焼けただれる(胃炎)、あるいは、食べ物のタンパク質の分解を助けるペプシンに消化されて崩れる(消化胃潰瘍)ということが起こってくるのです。
ストレスにより刺激をうけた交感神経は、唾液や消化液の分泌も減少させ、さらに、胃や腸の蠕動運動をも弱めるため、消化活動は抑制されます。これは、ストレス時に必要な多くの栄養素の供給が十分にできなくなることを意味します。
また、小腸の上皮細胞のように新陳代謝が非常に早い細胞や絨毛は、栄養素不足の影響を如実に受けることになります。栄養素不足により新細胞づくりが抑制されると、腸管の粘膜は薄くなり、良好なバリアー機能を維持できなくなります。とうぜん栄養素の消化吸収にも支障がでてきます。
さらに、腸内細菌叢の変化とともに、消化管壁は増加した刺激および炎症により免疫系に悪影響を与え、より多くの有害物質が体内に吸収されるのを許してしまいます。アレルギーから自己免疫疾患まで、あらゆるトラブルが引きおこされることにも…。
スムーズな消化吸収があってこそ、私たちは栄養素の恩恵にあずかり、体の機能を正常に保つことができます。慢性のストレスは、私たちの体から栄養素を奪うばかりか、栄養素の消化吸収を著しく低下させ、結果的に体や心へのダメージを拡大させていきます。適切なストレスマネージメントにより、消化器系を守り、良好な消化吸収を目指したいですね。
参考サイト:
精神的なストレスで消化不良のリスクが増加
European Journal of Gastroenterology & Hepatology (Jan. 2017)
やはり精神的なストレスで胃潰瘍・十二指腸胃潰瘍のリスクが増加する
BMC Gastroenterology (November 2016)