ストレス耐性を高め、最適な免疫を維持

2019年の末に中国で感染が確認されてから、一挙に世界に広まった新型コロナウイルス。日本でも今年の4月に緊急態宣言が発令され、私たちの日常生活も大きく変わってしまいました。

新型コロナウイルス感染を心配する日々、そして外出自粛や休校などによる生活習慣の変化など、これらすべてがストレスの原因になります。そして日常生活が変わり始めたてから3か月近くが過ぎ、慢性ストレス状態に陥っている人も増えてきているのではないでしょうか。

そんな状況の中、この慢性ストレスが及ぼす影響で心配されるのが免疫力の低下です。免疫力を高め、新型コロナウイルスから身を守るためには、ストレスを上手にコントロールし、ストレス耐性(レジリエンス)を高めていくことが重要です。

ストレス耐性を高め、最適な免疫を維持するには、「思考」「行動」「栄養」の3方向からのアプローチが基本です。なかでも特に重視してほしいのが「栄養」です。日々ストレスが続く状態においては、多くの栄養素が消費されてしまうので、免疫強化のためには適切な栄養素を効率よく補う必要があるからです。

スリランカ・ギリシャ・オーストラリアの研究チームにより、「ウイルス感染症予防のための栄養介入」という文献レビューが発表されました。(2020年4月)このレビューではウイルス性疾患、とくに呼吸器感染症に重点を置いた栄養ベースの介入研究に注目しています。ビタミンA、D、亜鉛、セレンの補給は、ウイルス感染症の予防と治療に有益である可能性が高いという結論を引きだしています(1)。

ここでは、特に免疫の働きに焦点を当て、免疫強化のために必要、そして不可欠とされる栄養素について考えてみたいと思います。

2段階の免疫機能:「防御」と「攻撃」

人間の体にはウイルスや細菌などの病原体や身体にとっての異物(これらを「抗原」という)を侵入させない「防御」、そして体内に侵入した抗原に対して免疫細胞が協力して多方面から対処する「攻撃」の2段階の免疫機能が生まれつき備わっています。

免疫力を高めるということは、この2段階の免疫機能が滞りなく機能し、最大限に働く条件を整えることを意味します。そのために不可欠なのが「栄養素」です。免疫の働きを詳しく知れば、どこでどのような栄養素が必要とされているのかが分かってきます。

第1段階「防御」:粘膜免疫

花粉症や風邪の症状として、咳やくしゃみ、鼻水などがありますが、これは抗原を体外に排出するために最初に現れる体の反応です。この最初の防御で防ぎきれなかった抗原に対して、まず働くのが次の「防御」である「粘膜免疫」です。

粘膜免疫は、目、鼻、口、腸管,気管などで働き、身体にとって有害なものをシャットアウトするバリアの役割を果たしています。粘膜が体の中と外との境界線であり、強力なバリアを張り巡らせておくことで、抗原の体内への侵入を防ぐとともに、体外に排出し感染を防ぎます。

粘膜免疫の備わっている腸管は消化器官の一部で、消化管は小腸、大腸、肛門と体の中を通ってはいますが、空間的には外部と繋がっています。それはチクワの穴のようなもので、体の中心を突き抜ける中空の管であることから、体外と考えられます。口などから入ってきた病原体に絶えずさらされているため、腸には免疫の防御・攻撃システムが二重三重に張りめぐらされており、50%以上の免疫が腸に集まっているといわれています。なお、気管内も体外であり、同様に厳重な防御機能・攻撃機構が備わっています。

粘膜免疫のバリアはその機能により,「物理的バリア」と「化学的バリア」の二つに大別されます(2)。

物理的バリアとは,文字どおり物理的な壁となって病原体の侵入を防止するバリアです。目・口・鼻・腸管や気管粘膜の表面は粘液層で覆われています。粘液は水分を多く含み、ネバネバした糖タンパク質によって構成されています。この糖タンパク質はウイルスや細菌の活動を弱めたり、粘液に取り込んで洗い流すなどして粘膜を守っていますので、この粘液がしっかり分泌されることが大切です。

では、粘膜を健康に保ち、粘液の分泌を促進するのに必要な栄養素はどんなものなのでしょう。

<物理的バリア維持に必要な栄養素>

脂溶性ビタミンの一つであるビタミンAは粘膜細胞の形成に不可欠であり、粘膜バリアを健全な状態に維持し、免疫機能を高めます。ビタミンAの働きを維持するためには亜鉛が必須となります。亜鉛はビタミンAの血液内での輸送に関わり、ビタミンAの代謝酵素に欠かせません。

同じく脂溶性ビタミンのビタミンDは、粘膜細胞の結合タンパク質を誘導する働きがあり、粘膜細胞の健全化を助けます。

ビタミンB2は粘膜の代謝に関与し、ナイアシン(ビタミンB3)は粘膜の炎症を防ぐ役割があります。ビタミンB群は相互作用によって働くビタミンなので、他のB群と一緒に摂取すると効果的です。

オメガ脂肪酸は粘膜の外壁を作るために必要です。また、粘液の主成分は糖タンパク質ですから、材料となるタンパク質の十分な摂取が不可欠です。

<化学的バリア維持に必要な栄養素>

一方で「化学的バリア」は物理的バリアと異なり、病原体に化学的変化をもたらし抗菌活性を発揮することで侵入を抑制するバリアです。粘膜免疫においてこの役目を担っているのが、粘膜上皮から分泌される抗菌タンパクです。この抗菌タンパクの合成には、タンパク質とともに、ビタミンDが必要になります。

その他に粘膜層で活躍しているのが、「IgA抗体」です。侵入してきた抗原にくっついて、これを無力化するように働く免疫物質です。タンパク質からできており、免疫グロブリンとも呼ばれています。IgAは、特定の抗原だけに反応するのではなく、多種多様な抗原に反応するという、守備範囲の広さが特徴です。IgAをつくるには、このあと「全身免疫」で出てくるB細胞が正しく機能する必要があり、そのためにはビタミンAが必須の栄養素となります。

第2段階「攻撃」:全身免疫

第1段階の「粘膜免疫」をすり抜け、体内に侵入してきた抗原に対して、第2段階として「全身免疫」が「攻撃」をしかけます。「全身免疫」のシステムでは、免疫細胞が抗原を捕えて、排除するよう働きます。免疫細胞は白血球とも呼ばれており、血管やリンパ管を通って体全体を巡り、特にリンパ節に多く集まっています。

「全身免疫」は、「自然免疫」と「獲得免疫」の二つに大きく分けることができます。

体内に侵入してきた抗原に対して、即座に反応するのが「自然免疫」です。ここで活躍するのが好中球、マクロファージやNK(ナチュラルキラー)などの免疫細胞です。好中球は抗原が侵入すると、真っ先に駆けつけ、活性酸素を使って侵入者を攻撃/分解、そして貪食します。またマクロファージは侵入者をまるごと食べて直接退治します。

自然免疫だけで十分な対応ができなくなると、T細胞やB細胞などによる、高度な「獲得免疫」が働き始めます。自然免疫細胞から侵入者情報を知らされたT細胞は、その情報をもとに最適な抗体をB細胞に量産させます。また、T細胞は感染した細胞を病原体もろとも破壊し、病原体の増殖を防ぎます。T細胞にもB細胞にも多くの仲間が存在し、それぞれが厳密に決められた任務を遂行していきます。

B細胞とT細胞は、どんな抗原でもほぼ対応できますが、攻撃態勢が整うまで少し時間がかかります。しかし自然免疫と違って抗原を記憶することができ、2回目以降の抗原の侵入では効果的に攻撃することができます。

このように、さまざまな免疫細胞の働きで私たちの身体は守られていますが、免疫細胞の連携プレイがスムーズに進むためには、多くの栄養素が必要となります。

<全身免疫に必要な栄養素>

免疫細胞の機能保持に、まず欠かせないのがビタミンCです。好中球やマクロファージは、体内の病原体を殺すために活性酸素を産生します。しかしその過程で免疫細胞自体や周りの健康な細胞にもダメージを与えてしまいます。ビタミンCは、活性酸素から細胞を保護するのに非常に効果的な抗酸化物質として働きます。

免疫細胞にはもともと高濃度のビタミンCが蓄えられており、細胞内のビタミンCレベルを常にあげておくことにより、免疫機能を最善の状態に保つこともできます。さらにビタミンCはT細胞やNK細胞の増殖を助け、T細胞の機能を向上させます(3)。その他にもストレス下において疲弊しやすい副腎の機能向上や、病原体から体を守る最初の物質的バリアである皮膚の主成分、コラーゲンの生成にも関与しています。

ビタミンAは、T細胞やB細胞のような獲得免疫の調節に関与しています。ビタミンAの欠乏は侵入者を貪食で殺滅する好中球やマクロファージのような免疫細胞の機能を低下させることが明らかになっています。これに加えて、ビタミンAの欠乏は免疫細胞の情報交換を担っているサイトカインのシグナルを変化させ、自然免疫の炎症応答に影響があるといわれています(4)。

ビタミンDには免疫機能を調節する働きがあります。これは過剰な免疫反応を抑制し、必要な免疫機能を促進するというものです。ルイジアナ州立大学健康科学センター・ニューオーリンズのFrank H. Lau氏が率いる研究チームは、新型コロナウイルスとビタミンDの関係性を調べた結果、ビタミンD不足は新型コロナウイルス感染の重篤化につながるのではないかという論文を発表しました(5)。

抗酸化物質であるビタミンEは、活性酸素の損傷から細胞膜を保護し、細胞の損傷が引き起こす免疫応答の誤りを防ぐために必要とされます。またセレンも、適切な免疫応答を保持するために不可欠です。その他にも多くの栄養素が免疫ネットワークをサポートしています。

免疫強化には適切な栄養素の摂取とストレスケア

以上のように免疫の働きを一つ一つみていくと、多くの栄養素によって人間の体は守れていることが分かります。そして免疫力を高めるためには、良質のタンパク質、ビタミン(脂溶性A・D・E/水溶性B・C),そして亜鉛、セレンをはじめとするミネラル類など、さまざまな栄養素の確保が必要であることが分かるでしょう。

なお、免疫の多くをつかさどる腸内環境も、免疫細胞の働きも、人によって大きく異なります。そのため、ある特定の栄養素だけ取り入れれば、免疫力が高まるというわけではありません。免疫力アップに効果のある栄養素を意識しながらも、体にストレスを与える添加物や過剰な糖質摂取を控え、ホールフード(全体食)での食事を心がけることが大切です。また、ストレスケアのために質の良い睡眠と適度な運動も心掛けましょう。

筆者: 豊田 幸代 (認定ストレスニュートリショニスト、認定ホリスティックプラクティショナー)

参考資料:
1. Ranil Jayawardena, Piumika Sooriyaarachchi, et al. Enhancing immunity in viral infections, with special emphasis on COVID-19: A review. Diabetes Metab Syndr. 2020 Apr 16
2.奥村龍,粘膜バリアによる腸内細菌と腸管上皮の分離. 生体学 第89巻第5号.2017.p.732.
3. Gwendolyn N.Y.van Gorkom, Roel G.J.Klein Wolterink, et al. Influence of Vitamin C on Lymphocytes: An Overview. Antioxidants (Basel). 2018 Mar; 7(3):41.
4. 日本微量栄養素情報センター.免疫システムの概要 Written by Victoria J. Drake,Linus Pauling Institute Oregon State Universit.2010 Aug.
5. Frank H. Lau, Rinku Majumder, et al. Vitamin D Insufficiency is Prevalent in Severe COVID-19. medRxiv. 2020 Apr 24.