世界的なパンデミックの状況下、誰しもストレスを避けることができなくなっています。世界中で未だ新型コロナウイルスの感染者が増加しており、日本でも第2波が懸念されるなか、新種のインベーダーから身を守り、健康でありつづけるためには、免疫機能を最適な状態に保つことが必須です。
コルチゾールの長期的な過剰分泌が問題
ストレスがつづくと、ステロイドホルモンである「コルチゾール」の分泌が増加します。コルチゾールは身体にとって重要なホルモンの1つではあるものの、過剰なコルチゾールが長期間分泌しつづけると、免疫力は低下。あらゆる疾病のリスクが高まり、寿命が縮まることが知られます(1)。
ストレス時に分泌されるコルチゾールは、ストレスに対応して副腎から分泌されます。コルチゾールは一連の複雑な作用で体内環境をダイナミックに変化させ、生死にかかわる状況から安全に逃げるため、あるいは、脅威を撃退するために最善の身体状態をつくりだします。筋肉の緊張を高め、血糖値や心拍数を上昇させ、組織修復物質を増加させ、また、集中力も高めます。その一方、緊急ではない体内のプロセス――消化器系、生殖システム、免疫機能など――を抑制するように働きます。
こうした作用はあくまでも短期的に有利に働くものであり、ストレスフルな脅威が去れば、コルチゾールは元の正常なバランスのとれた状態に戻ります。しかし、ストレッサー(ストレス要因)が長期にわたって存在しつづける状況、たとえば、何か月もつづいているコロナ禍のような場合や、次から次に新たなストレッサーが生じてきている場合、コルチゾールの分泌は常に「オン」のままです。このような状態が長引くと、生命活動/体と脳の重要な機能に障害が生じてきます(2)。
◆高血糖状態の継続
糖尿病、悪性腫瘍、心疾患、認知機能障害、神経系疾患のリスク上昇、他
◆体タンパク質の消耗
筋肉量の減少、治癒力低下、骨粗鬆症、膵臓機能障害リスクの上昇、他
◆免疫力の低下
風邪やインフルエンザ、感染症などにかかりやすくなる、アレルギー、自己免疫疾患、他
◆血行障害(血液凝固)
頭痛、耳鳴り、動脈硬化、心筋梗塞/脳梗塞リスクの上昇、他
◆他のホルモンへの影響
甲状腺機能低下、性ホルモン低下/インバランス、不眠症、高血圧、PMS、肥満、他
◆海馬の萎縮
記憶力低下、うつ病、アルツハイマー病リスクの上昇、他
ストレスは免疫機能を低下させる
長びくストレスにより、高コルチゾール状態がつづくことが危険である大きな理由の1つは、リンパ球が減少することです。白血球の一種であるリンパ球は、ウイルスや他の侵略者を排除するために働く免疫細胞で、ナチュラルキラー細胞、T細胞、B細胞などが存在します。継続的なストレスにより、これら免疫細胞の分化・成熟にかかわる胸腺・リンパ節が委縮すると、最適な免疫機能は維持できなくなります。
胸腺はリンパ球の一種であるT細胞の分化、成熟などに関わっています。T細胞は、この胸腺で“教育”を受けることで、最適な免疫機能を発揮できるようになります。また、T細胞はリンパ球の仲間であるB細胞の分化増殖や抗体の調整をする役目をもっています。胸腺が委縮するということは、この教育が不完全になり、免疫に役立たないリンパ球が増えることを意味します。また、自己と非自己の識別力も低下するので、自己免疫疾患のリスクも増えます(3)。
リンパ節は、リンパ球が集中している重要な免疫器官です。リンパ節が萎縮すれば、リンパ球の減少につながるのはもちろん、本来リンパ管内で処理されるべき異物、病原体、がん細胞などの血液中への侵入を許すことにもつながります。
慢性的のストレス/高コルチゾールレベルで、死亡リスク増加
高齢者はストレスの影響を受けやすく、慢性的にコルチゾールレベルの高い状態がつづくと、死亡リスクは増加します。65歳以上を対象とした大規模な研究において、コルチゾールレベルが高い男性の死亡率は、コルチゾールレベルの低い男性に比べ63%高く、コルチゾールレベルが高い女性は、コルチゾールレベルが低い女性に比べ、82%も死亡率が高かったのです(1)! また別の研究では、尿中コルチゾールが高い人は、低い人に比べ、心血管疾患による死亡リスクが5倍にもなっていたのです(4)!
最適な免疫機能のためには、コルチゾールのリセットが大切
Withコロナ期においては、私たちは否応なしにストレスを受けつづけます。ストレス状態があたり前で、どれだけ自分にストレスがたまっているのかを自覚できない人も多いでしょう。唾液でコルチゾールレベルを調べればストレスレベルを推測することは可能です。しかし、そもそもストレスを自覚していなければ、検査を受けようとは思わないでしょう。その結果、気づかぬうちにコルチゾールレベルは上がり、免疫力は低下。自らの身体を守れなくなっていきます。
最適な免疫機能を維持し、健康で長生きするためには、ストレスケアを心がけ、食生活・ライフスタイルを見直すことで、コルチゾールレベルを適切なレベルに調整することが必須です。その方法は、次回くわしくお伝えしましょう。
参考資料:
(1) Schoorlemmer RM, Peeters GM, van Schoor NM, et al. Relationships between cortisol level, mortality and chronic diseases in older persons. Clin Endocrinol (Oxf). 2009 Dec;71(6):779-86.
(2) Yaribeygi H, Panahi Y, Sahraei H, et al. The impact of stress on body function: A review. EXCLI J. 2017;16:1057-72.
(3)『老化と寿命―「とし」をとらない秘訣とその実践』三石巌著(大平出版社)
(4) Vogelzangs N, Beekman AT, Milaneschi Y, et al. Urinary cortisol and six-year risk of all-cause and cardiovascular mortality. J Clin Endocrinol Metab. 2010 Nov;95(11):4959-64.